北海道支部紹介

委員長

羽山広文(はやま ひろふみ) 北海道大学大学院工学研究科・教授

マンション管理に向けた思い

一建築技術者およびマンションの所有者として感ずること(日本マンション学会誌 第32号,特集:200年(超長期)マンションに向けての課題と展望,p.34,2009.1掲載)

200年マンション実現は売主か

現在、日本における多くの分譲マンションは、売主であるデベロッパーが土地取得・建築企画、工事発注、売買契約を経て、区分所有者へ引き渡され、その後、区分所有者が管理組合を結成し管理運営している。建物に瑕疵があれば、売主はその責に応じなければならない。ところが、その瑕疵担保責任の期間は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」で10年(特約で20年以内)と定められているものの、200年と比較すると、あまりにも短い。
 マンションの物理的寿命は使用材料や工法など初期性能に大きく左右され、その決定権は発注者である売主が握っている。鶏と卵の関係になるが、200年マンションを実現する最初のボタンを掛けるのは売主であり、彼らが強い意志と責任を持たない限り、その実現は極めて困難といえる。

法令は万能か

マンションの物理的寿命を決定する大きな要素は躯体である。その耐震基準は建築基準法および建築基準施行令などの法令で規定されているが、想定外の地震の度に改正される。現に1920年市街地建築物法が施行されてから、2007年建築基準法及び同施行令改正までの87年間で6度も変わっている。これらの法令は時代とともに変化し、200年の長期に渡る拠り所にはできない。途中で耐震改修する方法もあるが、200年マンションの実現には、200年後でも通用するような基準の設定が欠かせない。
 一方、マンションは建築基準法だけではなく都市計画法の規定を満たす必要がある。用途地域には建ぺい率と容積率が規定されており、これらの上限値で建設されることが多い。経済性を勘案すると、致し方ない。これらの見直しは、マンションの建て替えを円滑に進める原動力にもなるが、例え歴史的建造物であっても、その存続を困難にし、200年マンションの実現にとって大きなハードルとなる。今後、法令の制定・改正については大いに議論の余地がある。


修繕・更新費用の捻出には

200年マンションの実現には定期的な建物の修繕が欠かせないが、相当の費用を用意しなければならない。そこで、以下に2案を提案する。
■無暖房マンション化
 無暖房マンションとは、暖房用エネルギー消費量をほぼゼロにすることである。温暖な地域では暖房用の料金はさほど多くないが、寒冷な地域ではマンションでも年間5~10万円程度は必要になる。これを、ほぼゼロにするのである。この実現には、換気を含めた建物の熱損失係数q値を0.5W/(m2・K)程度以下にする必要がある。しかし、マンションの多くは中間階・中間室が多く、外壁・屋根の高断熱化(断熱材厚さ100mm程度以上)、熱貫流率K値が1.5 W/(m2・K)以下となるLow-Eペアガラスの窓、全熱交換換気扇を設置することで、容易に実現できる。壁体・屋根の断熱は改修工事で実施するには厄介だが、Low-Eペアガラスの窓の設置は現在の窓に内建具として設置でき、工事は簡単である。原油価格の乱高下で長期的なエネルギー価格は予測できないが、この先値上がりすると考えるのが妥当である。ならば、これらの方策により1戸当たり年間5万円程度の削減は十分に可能な値である。
■高圧一括受電化
 一般のビルでは、電力会社と高圧一括受電で契約し、建物管理者が入居するテナントに対して使用量を検針し料金を徴収している。ところが、多くのマンションでは共用部と各専有部で個々に電力会社と契約している。高圧一括受電方式は受変電設備の建設費・維持管理費は必要なものの、個々の契約よりも電力料金が45~55%も割安になる(現在の契約形態および使用量により異なる)。管理組合が自ら実施(受変電設備の設置、検針、料金の徴収)することで、その差益を手にすることができる。実現するには全戸の賛成が必要だが、一般的な家族構成のマンションならば、1戸当たり年間5万円程度の差益ができる。私の住むマンションでも昨年これを実施し、1戸当たり年間約6万円の差益が生まれ、その効果は実証されている。
■修繕積立金への繰入
 上記の無暖房マンション化と高圧一括受電化が可能になれば、1戸当たり年間10万円の差益になる。これは現在の修繕積立金の額に匹敵する。すなわち、労せず修繕積立金を現在の約2倍にできる。200年で1戸当たり2000万円、100戸のマンションならば20億円になる。無暖房マンション化は、かなりの初期投資が必要になるため、新築時に実施すべきかもしれないが、高圧一括受電化は、規模が大きなマンションなら単年度で投資が改修でき、既設のマンションでも修繕積立金増額の切り札と成り得る手法である。