野外実習@ 「森を通して自然のしくみを見にいこう」

 冒頭、橋のうえから山の遠景をスケッチ。霧がかかった遠くの山、手前の川原、近くの建物、木々。絵で表現できないもの(音、匂いなど)は文字で残しておくこともひとつの方法とのアドバイス。時間で区切って周囲の人と絵を見せ合いながら、気になったことなどを情報交換。ひとそれぞれの視点を知る。
 入り口でヒルやウルシへの注意喚起のあと、いよいよ森に入る。入り口には鳥に突付かれた穴がたくさん開いた倒木が根元から朽ちて倒れている。橋の上から、外から見ていた森に実際に入って、気づいたことを言い合う。「虫にくわれた葉が多い」「コケが多い」「急に川の音が聞こえ出した」「空が見えない」「足元の土がやわらかい」「菌のにおいがする」「空気がよくなった」「冷気が降りてくる」などなど。ここで、ひとは通常、視覚情報に80%頼っているという説明を聞く。そして、先のコメントには、森に入ると他の感覚をつかった情報をより多く取り入れている様子が現れているとの指摘。確かにそのとおりだと思う。人間の感覚はすぐに慣れてしまうので「最初の5分の感覚」を大事にし、それをヒントにするとよいと言われなおさら納得。自然観察の基本は感覚から入ることだと改めて確認される。名前から入るのは近道のような気がするが、名前を知るとその植物・動物のことがすべてわかった気になってしまう恐れがあるという。またまた、なるほど!と思う。
 次に森の中から葉のつき方をスケッチする。先ほどは森を外から見てスケッチをした。今度は中から、というわけである。自分で1本の木を選び、スケッチする。相変わらず、絵は苦手だ。スケッチをするということは、じっくりと見るということである。森の木々が自分の枝だけでなく他の木々との関係の中で光の取り合いをしながら森の天井を形成している。天井が高木層ならば、2階3階にあたる亜高木層があり、さらに低木層もある。木も動物とは違うスピードで動いていると言われまた納得する。
 「では、昨日降った雨水はどこへ行ったのでしょう?」と話題が変わる。雨水は葉に落ち、一部はそこにたまり、幹を伝い、地面に落ちる。木の幹をぐるりと一周さわっていくと水の通り道の部分だけが確かに濡れて湿っぽい。試しに地面に水を注いでみると、確かに表面を流れ出すことなく、しみこんでゆく。森の木々は葉や幹に、そして地面に水を溜め込んでいる。「緑のダム」と言われるゆえんである。地面の落ち葉を1枚づつていねいにめくってみる。大きな葉の下に少しくだかれた小さな葉、そしてもっと小さなかけら。なかなか土にたどりつかない。そしていくつかの「動くもの」が目に入る。いわゆる土壌生物たちである。森の木々は光・水・二酸化炭素から有機物と酸素を作る生産者であり、動物は消費者である。その両者を結んでいるのが分解者と言われる彼ら土壌生物だという。その3者のサイクルこそが自然のしくみであるという。先ほどめくった落ち葉は、去年のもの、おととしのもの、その前のもの…、と降り積もっていくうちに分解され土に戻る。ある調査によると、22センチの足の下には土壌生物が実に126万匹、生息しているという。もはや、頭のなかはいっぱいいっぱいである。


野外実習A 「地域の自然を理解しよう」

 実習が行われている「赤谷川」周辺の自然を理解するため、3人の現地の講師をまねいてのワークシップ。植物・動物・地質、それぞれの専門家のあとについてまわる。実際に植物を見て、動物の痕跡を探して歩くうちに時間はあっという間に過ぎてゆく。地質では土地の隆起・沈降の中で、川が浸食・運搬・堆積を繰り返してきた様子を川原の石(正確には礫 レキ )から見て取るなど、そういえば昔、学校で習ったような話までも飛び出し、楽しく過ごすことができた。


野外実習B 「自然観察会のテーマ探し」

 3人の自然観察指導員がそれぞれ与えられた切り口から、観察会のテーマを投げかける。と、同時に指導員が参加者の前に出て話しをするうえでのさまざまな注意点をも提示していたようだ。
 まず、「ひとと自然のかかわり」を切り口に、両側に草の生えた橋を題材に土壌保全についての話があった。ハイキング道などに設置された丸太を使用した階段が実は土が流れないようにするための措置であり、人が歩きやすくするためのものではないとの話、初耳であった。さらにアスファルト舗装に伴う熱や側溝、橋、電線、街灯…、さまざまなものを「自然との共存」という視点で見直してゆくと、考えさせられることしきりであった。それが本当に必要なのか必要でないのか、必要ならばよりよい方法はないのか、生き物や景色に心配りできているのかを検証してゆくことが確かに大事であるように思われた。
 続いて「自然の仕組みに注目する」という切り口から、さまざまなボードを使った説明の実例を示してもらった。難解な植物の漢字読みや、種の話など、非常に興味深いものが多かった。また、動物の体型がえさと密接に関連していること、リーダーとしての心得などを実際に絵を用いて解説され、「へぇ〜」の連発であった。
 最後に「五感を使って」という切り口から、フィルムケースに入った植物を匂いを頼りに探したり、布袋に入った植物を手探りする人に質問をして、その答えを頼りに探し出すゲームなどをした。ここでは探し出した答えの植物を実際「採ってくる」ように指示が出されたが、ここでも「強い自然と弱い自然」の判断や参加者の人数など、状況を踏まえた指示が必要であることが話された。また、そこで「採ってきた自然」を「その場所から持ち出すこと」が、自然のバランスを崩す第一歩になりかねないとの話など、興味深かった。


野外実習C 「テーマさがしとプログラムづくり」

 前日の説明のとおり、ひとり5分で自然観察会を開くために、自分のテーマを考えていた。頭の中にはふたつの素材が浮かび、そのどちらにするかが悩みの種だった。
 ひとつは「川」。初日、自己紹介のときにたまたま座る場所がなくて靴を脱いで川に入った。最初に感じたことは「川の水が意外に冷たくない」ということだった。この「体験」を「なぜ」に結び付けていくこと、これがひとつめの選択肢。もうひとつは夏の赤城で出逢った今年の花、「ツリブネソウ」を取り上げることだった。
 最終的に当日の朝、テーマを「ツリブネソウ」に決めた。今年、赤城で初めて出逢ったときの「想い」を出発点にすることにした。実際、このフィールドにはツリブネソウが多く咲いていた。群落を作っているところもあった。ポイントは川古温泉、ゲート上の数メートルの林道沿いに決めた。実際にポイントで見てみると、思った以上に花が咲いているのが目に入った。両側ではたかが数メートルでも見切れない。山側だけに絞ってスケッチを始めた。最初、ツリブネソウのほかに、ツユクサとおそらくタデに仲間であろうか、が目にはいった。さらに白い花があり、一往復すると黄色い小さな花が目に入った。ツユクサの花のつき方に改めて驚きを感じながらおおざっぱなスケッチをとっていると、さらに小さな花が目に入る。実に3往復するうちに10種類の花が咲いているのに驚いた。もちろん、名前を知っているものなどほとんどない。最初目に入ることもなかった花たちが、実はいろいろなカタチで自己主張をしていることに気づいたとき、今回のテーマが改めて「名もなき花たちの自己主張」というカタチでようやくイメージできるようになっていった。自分にとっては今年初対面のツリブネソウだって、決して珍しい部類に入るものではない。きっと地元に戻って足元の自然から大切にしてゆこうというメッセージに結び付けられるはずだ、と。自分の中のフォーカスがツリブネソウから花の多様性に移ったとき、今回の自然観察会の概要がようやく固まった。あとはプレゼンテーション、野活で培った遊びの要素をどう盛り込むか、だった。ポイントから川原に戻り、計画書を書きながら思いつきでスケッチブックに向かって苦手な絵を描いてみた。そして、アイスブレイクのゲームを取り入れて最初の説明に結びつける。ほぼ、全体像が固まった。あとは実際にやってみるだけだ。すっかりとイメージの世界へと入り込み始めていた。


野外実習D 「実際に自然観察会をしてみよう」

 昼食後、全体を8つの班へと分ける。単純に並んだ順にグループわけが済んだ。指定された班とは違い、ある意味とてもイージーな決め方が緊張感を緩和する。6名のポイントを確認すると川原が4人、林道が2人。林道の代表で川原代表とじゃんけんする。じゃんけんの弱さには定評がある。当然負けて後にまわる。林道の二人で再びじゃんけん。当然、負け。結果としてこのグループの最後という順番になった。それなりのプレッシャーは感じつつ、ある意味人前に何かをすることには慣れ以上のものがある。かえって他の人たちにとってはよかったのかもしれないと思ったりもした。
 川原で4本、それぞれ視点の観察会を終え林道を上がる。自分のポイントを通り過ぎてさらに上へ。ふと思う。当初、下から上がってきて観察する計画だったが次は下りになる。ちょっとパニくる。まあ、なんとかなるだろう、と腹を決め、5人めの観察会のポイントへ。最初に森に入ったときに目にとまったあの倒木を題材にした観察会だった。ほぼ時間どおりに終了し、とうとう6人め、自分の番となった。
 とにかく与えられた時間は5分である。時間をかければどうとでもなる。不慣れな人には長すぎる5分が、自分にとってどれほど短いかは言うまでもない。どこを削り、どうコンパクトにまとめるか、それにかかっている。いきなりつかみに「じずの自然観察かぁ〜い」(笑)、と例によって人格を入れ替え(!)、アイスブレイクにグーパーゲーム。テーマに花を取り上げたことを説明し、花につながる形容詞をそれぞれに言ってもらう。そして林道沿いの花探し。意外に時間がかかる。全員で見直す時間は残念ながら省略せざるを得ない。切り上げて再び、自分が見つけた花を形容詞で表現してもらう。花の多様性をお互いに認識し、それが昆虫を寄せて受粉を受けるための「花たちの自己主張」という結論へと導く。そして、おそらくはそれぞれの地元に戻っても同じような状況があることを確認し、ほぼ時間切れの状況となる。終了後、参加者からのコメントをもらう。ほぼ意図した通りのリアクションをもらう。肝心の確認の時間がとれなかったものの、自分なりには合格点をつけられる内容であったようにも思う。まだまだ、詰めるところは多々あるものの…。