|
子供たちがいきいきと生きるために大人がなすべきこと
著者は、思春期の多感な青少年を多く診ている精神科医です。非行や犯罪、いじめやひきこもり等、青少年の抱える問題は、一人、一家庭の問題ではなくもはや社会問題と化していますが、そういった子供達と多く関わる中で強く著者が思われるところが、この本には書かれています。
著者は親の過保護や甘やかしに強い憤りを感じておられるのですが、それはつまり…。
親が子供達の前に「生き易いように」と考えてレールを敷いてしまうことが、子供達に「自分で選んだことが無い」「失敗したことがない」「前に道が無かったことがない」という状況を作り出していること。それは、思春期になり青年期になり、これからは一人で「自分で選ばなければならない」「責任をとり失敗もまた友としなければならない」「他人に優しさを提供しなければならない」という時期、失敗の恐怖に凍り付いて一歩も進めない人間を形成しているにほかならないということへの憤りであり、警告でありなのだと思います。
人は自尊心に偏りを生じると、挫折をしやすくなります。挫折は一挙に犯罪へも…。
「自分は石ころのような存在ではない」…そんな自己存在の証のような犯罪です。実存主義のカミュの「太陽が眩しいから人を殺した」という言葉があるそうですが、まさにそんな感じです。…そして被害者はその個人と何ら関係のない人…という事が多いのです。
青少年の悩みというと、性欲のコントロールという視点も外せません。特に男性の射精には快感が伴い、十三〜十四歳前後で知ってしまうし、性欲はもともと攻撃性や暴力的なものと結びついているので、スポーツなどルールに則った戦いで攻撃性を昇華させることは大変有効な対応策ですが、昨今は部屋に閉じこもる子供が増えています。親達は勉強の大切さに心を砕きますが、体を動かすことの大切さは、見過ごしがちなんですね。
その勉強面でも、「子供が将来安楽な生活を送るための先行投資」的側面に傾きすぎている家庭が多く。投資した限り人は、何かしら見返りを期待してしまいます。そういうものなんですね。しかし見返りの追求が、優しい心や思いやり労わりなどの“ゆっくりとした穏やかなもの”を水面下でひっそり…しかし確実に駆逐しているかもしれないのです。
また、そうした先行投資や経済面を支えるため、父親はうんと外でお金を稼いでくる必要がありますね。その間母子は過剰に密着してしまいます。父親の存在は子供の自尊心の肥大を防ぐ働きがあるそうです。これは、母性が「子供を励まし力づける働き」を持っていることと、父性が「社会的客観的な視野を与える働き」を担っているところに関係深く、母子だけが密着してしまうと子供の、自分を客観的に見る力を養う力に欠けが生じててしまう…ということなのですね。そのために子供は「自分は偉い、他人はカス」というものの見方をしてしまうのですね。現に多くの子供達の中に「子供は王様、母親は奴隷、父親はそれ以下」という価値観が育って居るということを、皆薄々は肌で感じているのではないでしょうか。
それから「対人過敏」「対人恐怖」といったことで苦しんでいる子供達が、非常に多いことも憂慮すべき点です。これは言葉を換えれば「対等な対人関係を築けない」ことで、やはり子供同士切磋琢磨すべき年齢にそれが少なかったという事が考えられるでしょう。
子供達には同年代の者同士から学んだり教わったりする機会が、多く必要なんですね。大人達の感覚では、それは当たり前で、それの他に大人の教師をつけて子供達を学ばせようと心を砕くのだけれど、実際のところは大人の教師との時間が完全に子供同士の時間を食べてしまっている…それが現実かもしれません。
親が子供に人生のレールを敷いてあげることを、親は愛情だと思っています。
(誉め煽てて乗せる人もいるでしょう、また脅し脅迫しながら乗せる人もいるでしょう)
この愛情は子供にどんな効果をもたらすのでしょう。
子供は自分の中に判断力も決断力も育てられません。親は自分が投資した分の見返りをいつも子供に期待しています。それは子供にとっては監視で、自分らしさをどんどん押し隠すしかなくなります。親や世間に見せる顔はいい子の仮面で、仮面の下で子供達ははいい子でいることに疲れ果て、悲鳴をあげています。
子供は、「そのままの自分を愛してくれる愛情」からは、相当に飢えている…。この飢餓が、子供が自分の中に信頼や自信を育てること、他人と正常な対人関係を築くこと、その構築に障害をもたらしているというわけです。
結局、親たちがやっていることは、子供をいきなりロープウェイや車に乗せて山の頂上まで連れていっているようなものだ…と著者は言います。そこで「ほら、きれいでしょう」と言ったところで、その印象はきわめて薄くて当然。これは大変不幸なことです…プロセスのない人生です。これが、トラウマに耐える自我の強さを育てられなかった青少年を生んでいる要因の一つと、言えるかもしれません。
|